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「良い仕事がある。」


そう友人に言われたのが始まりだった……。


金に困ってた俺は友人の後を疑いもなくついて行った。
だが、目的地について早々誰かに殴られ意識を失って気がつけば全てが終わって
いた。
そう、全てが終わっていた。
俺は、人体実験をされ狼の組織を入れられていた。
だが、他の合成獣(キメラ)とは違い耳も人間のものの形のままで尻尾も生えておらず、毛の濃さも変わらなかった。
そのままでいれば人間だと疑わない容姿。
いや人間にしか見えない容姿。
殺戮衝動が芽生えるようになったとか、爪が異様に尖っているとかもなく、人間
のまま。
研究所はそんな俺を失敗作として丸裸の状態で


捨 て た 。



そう、捨てた



『捨てられた。』そう理解した瞬間、俺の意識は途切れた……。



気が付けば手には朱が付いており、俺を捨てに行った研究員達はただの肉塊とか
していた。
成功していたのだ。
アイツらの実験は、真の意味で成功したのだ。
『人間の容姿のまま動物の本能で殺戮を繰り返すモノ』
一回だけみたことのあるアイツらの研究書。
そこにはハッキリとそう書かれていた。



つまり、



俺は



実験の



『成功物。』



それがバレれば連れ戻されるのは目に見えた。
もう、あそこには戻りたくない。いや、戻らない。
そう決意し、肉塊とかした研究員だったものの服を身に纏い俺は研究所の敷地か
ら抜け出した……。

研究所を抜け出したのは良いが、直ぐに、埋め込まれた狼の遺伝子の反動で、我
を忘れ人を殺し囚人として投獄された。
それから10年の月日が経った。
正直、よく此所まで保ったと思う。
この10年、外界からは隔離され、情報すら貰えず、手や足の枷が外れることはな
かった。
さらに飯はカビの生えたパンと味のしないスープ。
人の良い看守のお蔭で飯にありつけないことはなかったが、もうこんな風に生き
るのは嫌だった。
だから、
だから
抜け出すと決めた。
抜け出すと決めるまでのこの10年間良い事といえば人の良い「ボブ」が看守だっ
た事ぐらいだ。
ボブは外の情報を教えてくれる、唯一の情報源でもあった。と、言ってもほぼ自
分の娘の話ばかりだったが。
それでも、外で何が起きているのかはいくつか教えてもらった。
俺の他にも獣人が捕まっただとか、違法研究をしていた所が摘発されたとか。他
愛もない話だったが、色々なことを話してくれた。
だがそれも今日で終わり。
これだけは、本当はやりたくなかった。
この10年間、わけのわからない薬を打たれ「アイツ」に変わることは無かったが、娘の誕生日で浮かれているボブは規定の時間に薬を打ち忘れた。
大分後に薬を打たれたが、もう遅いらしい。
10年間ずっとだしてもらえなかったからだろうか、抵抗が激しく、中にいるアイ
ツを押さえられそうにない。



だから、


今日、



脱獄する。



幸い、ボブによれば今日は一日曇りらしい。
姿を見られることは少ないはずだ。
ならば、アイツになった時にでもフェンスを破って逃げ出してくるれば万々歳だ

――俺は、そこまで考えると意識を無くした。
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